三叉路にみる近江人気質
滋賀県、琵琶湖の湖東地域への移住を検討するなかで、2019年7月21日から23日の3日間、彦根市、東近江市、近江八幡市を訪れました。宿泊は、南彦根駅前のスーパーホテル。移動手段は横浜からレンタカーを借りて、約5時間半で名神高速道路の彦根I.C.に到着しました。
まずは、芹川付近のさざなみ街道沿いに車を停めて、琵琶湖の雄大さを感じながら、新鮮な空気をたっぷりと吸い込みました。
彦根の町を歩いて行きかう人の様子を見ると、大阪や兵庫、京都のような個性的の強さは感じられず、穏やかな話し方で、笑顔で歩いている人が多いように感じられました。車を運転していても、地元の方の人柄が垣間見られた瞬間があったのでご紹介します。
南彦根から彦根に向かうとき、必ずナビが示す三叉路がありました。信号が一切ない交差点で、JRの踏切を越えて入ってくる車、踏切の前で一時停止する車、右折、左折が入り混じっていて、どの車が優先なのかすぐにはわからないような場所でした。最初に通ったときから、この交差点はあまり通りたくないなと思ったのですが、その後もナビの誘導で5回ほど通過することになりました。
最初は運よく左折できたと思ったのですが、何度か通過するたびに、それぞれが自分の行けるタイミングから一歩引いて、相手の車に譲ろうという空気があるように感じられました。
車の運転は土地柄が出るものです。関東では、後ろにぴったりつけられたり、どこから割り込まれるかわからないという緊張感が増します。仕事で茨城県を走ることも多いのですが、“茨城ダッシュ”という言葉があるほど、運転の主張が強い土地です。
滋賀県も車社会ですが、お年寄りが運転する軽自動車がゆっくりと走っていても、追い越したり、いらいらと運転している車はないように感じました。高齢者の免許返納が話題になる昨今ですが、お互いが無理な運転をしなければ、お年寄りの生活から車を奪うようなことはなく、社会のなかで安全に共存できるのではないかと感じました。
とはいえ、滋賀県の交通事故の発生数は、全国で真ん中ぐらいという数字が出ています。お年寄りの歩行者も多いので、注意に注意を重ねた上での運転が必要なことは間違いありません。彦根駅から彦根城へと続く道は片側2車線で走りやすく、お堀を越えて、お城の中まで車で入っていけるのも新鮮でした。
琵琶湖畔を走るさざなみ街道は、市街地を抜けると、広大な田畑が広がりドライブに最適です。
運転の経験がない方が車社会に移住すると、大きな不安を感じると思いますが、彦根から近江八幡のあたりでは、無理せず、運転を覚えることができる土地柄だと思います。
おんぼろの古民家を改装するだけが移住じゃない
「移住」という言葉がメディアでも多く取り上げられるようになってきました。日本は人口減少のサイクルに入っているのに、都市部は人が多すぎる……。地方の高齢化、人材不足に対応するためにも、「移住」は注目されています。
今回、私たち家族が横浜から移住先を探すなかで、「ほどほど田舎 ほどほど都会」を掲げる滋賀県は、移住初心者でも受け入れてもらえそうな、ハードルの低さを感じました。
そんななかで、家探しが始まりました。せっかくの移住なので、マンション住まいから戸建て住宅へ。部屋でペットを飼いたいという娘の希望をかなえつつ、妻は徒歩圏内にスーパーがあることを望んでいました。
「おんぼろの古民家を超低価格で借りて、ネズミを駆除したり、くもの巣を掃除して、水道を引いたり、お風呂を作ったり、苦労しながらも家庭菜園でとれた野菜を笑顔で食べる」。田舎暮らしのはじまりには、そんなイメージがありました。
しかし、彦根市や東近江市、近江八幡市での家探しは、もちろんそんなことはありませんでした。JRの駅から徒歩圏内で、100㎡を超える庭付きの一戸建てもありました。しかも、家賃10万円以下と格安! 家主さんの意向もあって、「不動産会社のネット検索ではなかなか物件がみつからない」と聞いていたのですが、それでも大手不動産サイトで、移住先の候補となる物件をいくつか見つけることができました。
6月にも一度、滋賀県を訪れたのですが、その際は不動産会社を介さず、自分たちで掲載されている家を探して、その周辺を散歩することで町の雰囲気を感じてみました。
今回は、第一候補にしていた近江八幡市の物件が、その日に契約になってしまったこともあって、予定していなかった物件も内覧させてもらいました。
その一つ、能登川駅近くの家は玄関に立派な松の木と巨石の庭があり室内に入ると前に住んでいた方の家具が、きれいな状態で残されていました。システムキッチン、浴室もきれいで、中庭はいかにも昔ながらの家といった趣がある家でした。ホームページに内部の写真が掲載されていなかった物件なので、足を運ばなくてはわからないことも多いと感じさせられました。
彦根市で紹介された家は、退去予定の方がまだ住んでいて、外観と、周囲の様子だけを見学しました。家族を連れて何度も横浜と滋賀を往復するのは難しく、内覧をどのタイミングでするのかは、悩ましいところでもあります。
地元の方のアドバイスや空き家が出るタイミング、最後は運に左右される部分もたくさんありそうです。そこが移住の難しさであり、おもしろさでもあると感じています。
まずは、一歩をふみだそう
移住を考えたとき、家探しと両輪で進めなくてはいけないのが、仕事探しです。滋賀県訪問3日目の目的は、彦根市での企業面談でした。
前日、不動産屋さんで「最低でも内定が出なくては契約できません」と言われ、すぐに働くとなった場合、引越しと仕事開始のタイミングを合わせるのが難しいと感じました。
私たちが移住を検討し始めたのが、3カ月前のことです。ネットでみつけた京都の移住セミナーに参加することが始まりでした。そこで初めて東京・有楽町にある「ふるさと回帰支援センター」を訪れ、各県が移住事業に力を入れ、窓口を常設していることを知りました。
私たちの移住スタイルに合っていると感じ、詳しくお話を伺ったのが滋賀県担当の池田成穂子さんでした。助成金がある行政を教えていただいたり、ハローワーク情報、「しがレポ」を教えてくれたのも池田さんでした。
まずは、滋賀を訪れてみよう。自分たちの目で見て、肌で感じてみよう。
そう考えて、すぐに滋賀まで車を走らせました。ホテルやレストラン、観光案内所などで現地の方とふれあった程度ですが、とてもいい印象を持つことができたので、そこから本格的に滋賀への移住計画がスタートしました。
滋賀再訪のため、池田さんに「しがレポ」の話を取り次いでいただいたのですが、その際、運営するいろあわせ様が希望する職種などを詳しく聞いていただき、求人中の企業様をご紹介いただくことで、スムーズに企業面談までたどり着くことができました。
また、今回、彦根市の地域おこし協力隊・移住コンシェルジュとして活動されている久保さゆりさんもご紹介いただき、彦根市での暮らしのポイントを詳しく教えていただきました。普段、彦根市役所で働かれているそうですが、現在庁舎改修のため、彦根駅目の前の商業施設に市役所の機能がすべて移転しているということです。
彦根市には空き家は多いけど、貸すか売るか、もしくはつぶしてしまうかで迷っている大家さんがいること。不動産屋さんには回ってこない情報が多いこと。一度アパートなどに入居して地元の人と仲よくなると、空き家の情報を教えてもらえるかもしれないということ、などを久保さんにアドバイスしていただきました。
滋賀の親切な皆さんとふれあうことで、少しずつですが私たちの移住のイメージも固まってきています。一歩を踏み出すことで、知らない世界がどんどん広がっていきます。
最後に、彦根駅で暑いなか、うちわを配っていた若い女の子たちがいました。
「暑いやろ~。暑いもんな!うちわ持っていって」
そんな一言にも、滋賀で暮らす人たちの優しさを感じた3日間でした。