●地方移住のホントのとこ。
昨今、地方で活躍される方やUIターンなど、地方暮らしの生活スタイルが、TVやWEBなどで取り上げられているのをよく見 かけるようになった。地方での暮らしに興味はあるものの、メディアからの情報では、良い面しか見えず「実際どうなのか?」という疑問を感じていた。そんな時この「しがレポ」の移住体験ツアーを知り、少しでも自分自身で「移住のホントの とこ」を体感できたらと思い、今回のツアーに参加した。
移住体験のツアーは2泊3日。この3日で企業訪問、農業と林業の現場見学、イベントへの参加に、移住者さんのお宅訪問、空き家見学。と、盛りだくさんのプラン。ツアーでの体験を通して感じた、地方で暮らすうえでの仕事や住宅事情、また今回案内していただいた米原エリアについてをまとめていきたいと思う。
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●米原はこんなとこ。
滋賀県は琵琶湖を中心に東西南北で「湖東/湖西/湖南/湖北」の4つのエリアに分けられる。今回案内していただいたのは、湖北と呼ばれる琵琶湖の北側に位置する米原市。おおまかに、湖岸側の市街地エリアと反対側の伊吹山系の山々が続く山間部に分かれ、山間部は、琵琶湖の水源地にもほど近く、水の綺麗な地域にしか生息できないホタルの群生や梅花藻といった、貴重な環境資源が身近にある。
合わせて都市部へのアクセスも良く、大阪・京都の通勤者のベッドタウンとしての利用もある。昔から交通の分岐点として発展、現在も流通の中継地として工場や物流センターを持っている有名企業も多く、自然の豊かさと利便性が共存している地域といえる。
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●米原のはたらくとこ。
ツアーの初日は、米原市の企業2社を訪問。1社目は米原ICからすぐの社会福祉法人 近江薫風会(おうみくんぷうかい)。「新しい福祉のスタンダード」を掲げ、利用者さんの居心地とスタッフさんの働き方の向上を目指し、新しいシステムや取組みなどを積極的に導入されながらも、設備面だけでなく部屋のカラーリングや室名といった細部の情報まで気を配られていたことと、若いスタッフさんが多く活躍される現場が印象的だった。
案内いただいた金森さんは、Uターン組。職員の方の出身地は、北は北海道から南は九州、沖縄までの方がいらっしゃるとのことでした。
2社目は、運送の現場でよく使われる木製パレットの製造販売を中心に行なっている山室木材工業株式会社。
こちらでは「自然と産業の共存」を目指し、パレットの製造過程で出た廃材などをバイオマス発電やハウス栽培に活用し、農作物を栽培。また収穫した果物を使った洋菓子店の運営など幅広い事業展開にとても驚いた。
2社の企業を訪問で感じたのは、環境への意識の高さや、新しいことに積極的にチャレンジする姿勢。都市部との距離感と美しい自然環境の併せ持つバランスの良い風土が、そこに暮らす人々にも感覚的に根付いているのかもしれない。
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●米原でやりたかったこと。①
2日目は、暮らシフト研究所を運営される藤田さんに「奥伊吹(おくいぶき)」と呼ばれるエリアを案内いただき、ご自身の 取り組みと、他の移住者の方たちがどんな活動をされているかについて伺った。
※「奥伊吹」は米原市北側の山村地域を含む一帯を指す通称。その呼び方は、伊吹山系の「奧側」に位置することに由来する。
奥伊吹の東草野地区は、琵琶湖の水源地にも近く、美しい山と綺麗な水に囲まれた自然豊かなエリア。藤田さんはここで、大学で学んだ環境学と前職の経験を生かし、自然農法による農業と地域づくりの活動を兼業されている。
自然農法とは、農薬や化学肥料を使用しない農法で、なるべく人の手を入れず、不耕起・無農薬・無肥料・無除草によって自然発生する多様な生態系を生かして作物を育てる方法。そんな藤田さんの畑は、周りの畑と比べると一見して畑と気づけないほど一面の緑色。実がなっていなければ野菜と雑草の見分けもつかないくらい。
この時は9月上旬で、収穫を控えた稲とトマトやオクラなどの夏野菜が実をつけていた。赤くなっていたトマトをひとついただいて感じたのは「素直な味わい」。最近の野菜、特にトマトはブランド化されているものが多く、特徴的な甘さや酸味のバリエーションを持たせたものが多く出回っているため、普段食べ慣れたものと比べると、分かりやすい味の個性が無く、味が薄いと思う人もいるかもしれない。その代わり、皮までえぐみの無い綺麗な味わいで、スッと体に吸収されるような感覚が印象的だった。
※周りの畑よりもたくさんの虫が集まる、藤田さんの畑。
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●米原でやりたかったこと。②
お昼は、東草野の甲津原地区の方達が運営している「麻心 magokoro」で、伊吹の特産品である蕎麦をいただき、その後移住者が中心となって毎年運営されている、音と光と食のアートイベント「伊吹の天窓」へ参加するため、奥伊吹スキー場へ。
※実行委員のひとり早川鉄兵さんは、地域おこし協力隊として移住し、このイベントを企画。イベントで制作した切り絵が、現在の切り絵作家としての活動を始めるきっかけに。
藤田さんの指示のもと、会場を照らすトーチとキャンプファイヤーの準備をお手伝い。このとき使用した薪は「自伐型林業」に取り組む移住者の方達が準備してくれたもの。自伐型林業とは、森林の活用とサイクルの維持を目的として、地域の異業種など組み合わせて新しい活用方法をつくり出す、新しいスタイルの林業。伐採した木材で、木製のお皿やカトラリーを製作したり、イベントでは薪で焼いたピザを出されたりなど、様々な活動を展開されていた。
キャンプファイヤーも無事完成。火をつけると周りに子供たちが集まり、マシュマロを焼いたりして楽しんでくれていたが、イベント終盤、会場の盛り上がりも最高潮を迎えたところで、ポツリポツリと雨が……。雨足がどんどん強くなり、少し焦ったが、なんとか最後まで消えることなく燃えてくれていた。
※伊吹の天窓は第10回という節目の年を迎え、今年で終了。また新たな形のイベントを計画されている。
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●米原の住むとこ。
最終日の3日目は、米原の物件の見学と移住者のお宅を訪問。
物件の見学は、山間部にある東草野の曲谷地区と街場の井之口地区の、特徴が異なる2つのエリア。どちらの物件も家主さんのご両親が元々住んでいた家で、現在は空き家となり借り手を探されている。米原市では一般的な賃貸物件もあるが、こういった古民家と言われるような一軒家などは、管理会社に管理委託をされないことが多く、一般的な住宅情報として出回ることが少ない。そのため空き家バンクなどを通して紹介してもらうケースが多いそう。
家の間取りは、この辺では「田の字型」という作りが一般的らしく、襖で「田」の形に仕切られた4つの部屋を中心とし、左右に縁側や土間が配置されていた。家賃相場はエリアや広さにもよるが、2万~5万円代とかなり魅力的な価格帯。
曲谷地区は、眼前を山々に囲まれた緑が豊かな山村。冬には1m以上の雪が積もることも多い豪雪地域の集落で、現在ではリフォームされているが、元々の茅葺屋根の特徴的な形を残す家が目立つ。近年は気候が変化していて、雪が少ないこともあるそう。
※暮らシフト研究所の藤田さんが住まれているのもこの曲谷地区。
井之口地区は、大きな国道も走る街場のエリアで、曲谷と比べると「山に囲まれた」という印象は薄い。周りは兼業で農家をされている方も多いため畑が多く、町のあちこちに用水路がたくさん流れている。静かで暮らしやすそうなエリア。
最後に、井之口地区で活動されるガラス作家の林和浩さんのお宅を訪問。
作家活動の拠点となる工房をつくるため、自然の多い米原での活動を希望し、滋賀の湖南エリアからご夫婦で移住。専門的な施工の経験ゼロながら、周りの人の協力やクラウドファウンディングで資金を集めたりして、空き家になっていた古民家を探し、約3年の時間をかけてご自身でリノベーション!!!
自然の風が抜け木の香りが心地よい素敵なお宅で、現在は自宅の横にあった蔵を工房に、2階は壁の無い一間のスペースにし、ワークショップなどを開催されている。
※真似するのは、ハードル高め……ですが、すごく素敵な工房。
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●米原を楽しむこと。
今回の体験ツアーに参加して分かったのは、米原エリアに移住された方の多くは、米原の「自然豊かな環境」に魅力を感じ、移住をされてきたということ。また米原には、目指す生活スタイルに合わせて、暮らしやすい街場のエリアも自然にどっぷり浸かれるエリアもあり、暮らしを選べる幅の広さがあった。
仕事については、農業やアート活動など、ご自身で活動されている方に多くお会いしたが、個々の活動内容が大きく異なるので、参考にするのは難しいというのが正直なところ。ですが、思っていた以上に、飛び込んでみたら何とかなるかも。という印象。そう思えたのは、多分みなさんが楽しそうに活動されていたから。ちょっと楽観的すぎるかもしれませんが。笑
それよりも、地方への移住において必要だと感じたのは、自ら楽しみを生み出す大切さ。そういう意味で、今回のツアーでは、のんびりした田舎暮らしというイメージはなく、みなさん自身の活動や情報収集、地域コミュニティーへの参加に、畑を荒らす動物との格闘など、逆に結構忙しそう!やりたいことや目的を見つけて、積極的に楽しめる人の方が、移住には向いているのかも。
さて、米原暮らしいかがですか?