長浜〜木之本移住体験レポート
「自然と文化と人の温かさが、 混ざりあう街」
11月のとある土曜の9時前、私は長浜市の木之本駅に降り立った。
6時東京駅発(始発)の新幹線に乗り、3時間弱。思ったよりも近いなという印象。
今回、移住体験に参加したきっかけは、1年前に東京に転勤になったことにある。
大都会で暮らす中で逆ベクトルが働いて、地方での生活に興味が湧いてきていたのと、もともと大学生活を滋賀で過ごしたので、ご縁を感じたからだ。
またここ最近「住みやすい県」として西日本では注目されている滋賀の、その魅力がどこにあるのかも、体感してみたかった。
実際の2日間のプログラムは、この様な内容。
【1日目】
・9:00 木之本駅にてコーディネーターさんにピックアップしてもらう
・9:15 明楽寺立ち寄り。地域のイベントなどに多く携わる住職夫人にご挨拶
・9:30〜13:00 古民家・文室邸にてイベント『地酒Bar &発酵マルシェ』お手伝い
・13:00〜17:00 翌日のカフェ準備
・17:00〜 長浜に移動(長浜泊)
【2日目】
・9:00 長浜出発(コーディネーターさんにピックアップしてもらう)
・10:00〜11:00 カフェ開店準備
・11:00〜15:00 古民家ブックカフェ『すくらむ』にて1日カフェ店員体験
・15:00〜16:00 片付け
・16:00 解散
さて初日の続き。木之本駅に着くと、コーディネーターの對馬さんに車で拾っていただいた。明るく自己紹介とプログラムの説明をしてくれる對馬さんにほっとする。
對馬さん自身、東京から移住されたそう。どうして移住を?と尋ねると、『大好きな仏像が多々ある環境に惹かれた』のが一番の理由らしい。仏像の話をする顔が生き生きとしていた。
そして明楽寺へ。
そこで紹介されたのが、住職夫人の藤谷さん。
ぴかぴかの笑顔とパワフルな雰囲気と話し方に圧倒される。何ともオープンで素敵な方。
藤谷さんも結婚して初めて木之本へやって来たという。
今では地元の『おかあさん達』のリーダー的存在で、女性グループ「すくらむ(住暮楽)」の代表をされている。
そのまま古民家の文室邸へと案内された。
その日開催される『地酒Bar &発酵マルシェ』イベントのお手伝いが目的だ。
地元の酒蔵、山路酒造と富田酒造による地酒飲み比べと、蔵元や日本酒ガールによるトークイベント、そして『発酵』をテーマにしたマルシェが同時開催される。
滋賀は鮒鮨に代表される様に、発酵にまつわる食が豊富だ。
会場設置の準備をする間にも、地元のイベント関係者の方がみなさん気さくに話かけてくださる。
北陸と近畿を結ぶ北国街道の旧宿場町である木之本は、街道沿いに趣のある古民家が残っていて、そこを改装してカフェや陶芸をされている方もいた。
(すくらむの藤谷さん) (丘峰喫茶店の牛すじ丼)
マルシェには、塩麹漬けや天然酵母パン、甘辛いタレの焼き肉などが並び、地元食材の豊かさを感じさせた。私も店番の合間に、いくつか回って青空の下で頬張り、「美味しい!」と思わず口に出た。
どのお店も東京では信じがたい量と、素人目にも分かる新鮮な食材、丁寧な調理で目と舌を楽しませてくれた。
(古民家交流スペース・文室邸) (文室邸横の駐車場がマルシェに)
お客様の中のご夫婦とお話ししていると、愛知から移住された方だった。
おふたりとも地縁があった訳ではなく、移住目的で複数県を視察した結果、ここが良いと決めたのが木之本だという。自然が豊かなのと人が良かったのが、大きな理由らしい。
昼過ぎからは、2日目のカフェ運営体験の準備に取り掛かった。
買い出しと長楽寺のキッチンをお借りしたケーキ作り。
(といっても、もうおひとりの移住体験者の方がカフェ勤務もプロだったので、初めての私はもっぱらお手伝いだったのだけれど。)
その後は長浜市に移動し、予約していた宿に泊まって1日目は終了。
●2日目
朝から再び木之本に移動し、お借りするブックカフェ『住暮楽(すくらむ)』へ。
長楽寺の藤本さんたちが、土日を中心にカフェをされていて、仕出しのお弁当もここで作られている。畳の部屋にテーブルとソファ、本棚が置かれており、ゆったりとくつろげる雰囲気が素敵だ。
1日2300円で誰でも場所をお借りできるそうで、月1回だけカフェを開きたい、イベント会場として使いたい、という人にとっても、魅力的な場所だと思う。
我々ふたりの移住体験者も、今回はこのプランを利用した。11〜15時の4時間だけのカフェ体験。
メニューは4つ。
私の作った栗の渋皮煮バニラアイス添えと、ハンドドリップコーヒー。
カフェのプロが作った、レモンジャムをかけたバナナパウンドケーキと、スパイスチャイ。
ちょうどその日はSL北びわこ号が走るイベントと、地元を記録した8mmフィルム上映会のイベントがあり、地域外のお客様も来てくれることを期待しつつ、カフェをオープンさせた。
30分後、2人連れで初めてのお客様がやって来た。
チャイとレモンケーキを2つずつオーダー。私はホールにまわる。
メニューの説明をした後、今日のカフェの趣旨を説明し、ちょっとした会話を交わすのが楽しい。
その後もぽつぽつとお客様が来てくださり、私の栗渋皮煮とコーヒーも、何名かにオーダーいただいた。「渋皮煮、手作りなんですね!」「すごく美味しい」の言葉に、ほっと胸をなでおろす。
フィルム上映会のついでに立ち寄ってくださった方、トレッキングイベントの帰りだという方、そして『すくらむ』メンバーの方にも何名か来ていただけたのが嬉しかった。
どんなことでもそうだけれど、まさに百聞は一見にしかず。
『提供する立場』になって見てみると、カフェの運営には、普段の客側からは見えなかった、ちょっとした手順や気遣いで成り立っているのだと改めて感じた。
また自分の作ったものに対して、ダイレクトに感想、フィードバックをもらえるのも、とても刺激的な体験だった。自分が作ったものとサービスが、直接頂くお金に値するのかも考えるきっかけとなった。
片付けの後で最後に、藤谷さんと對馬さんに見送っていただく。
久しぶりの長浜・木之本滞在は、新たな魅力を発見できた2日間だった。
また会いたいと思える人たちができ、再び滋賀県にご縁ができたのが何より嬉しい。
最後に私が感じた長浜・木之本エリアの住みやすさの理由をまとめてみた。
- 文化的な背景が深い
木之本地蔵をはじめ寺社仏閣が豊富で、北陸と近畿を結ぶ北国街道の宿場町であった、趣のある町並も楽しめる。イベント会場の古民家も、この街道沿いにある。また長浜の街中では、有名な長浜曳山祭りが行われ、子ども達はそこで歴史や文化はもちろん、周囲の人との関わり方や礼儀作法を学ぶという。
歴史的な街というのは、そこに住む人に誇りと土地への愛着をもたらす。
郊外の住宅地で生まれ育った私の目には、特にそれがまぶしく映った。
- 自然と食べ物が豊か
前述した様に、食材が豊富かつリーズナブル。(農家の方に分けて頂くこともしばしばらしい)。
そして言わずもがな琵琶湖の水辺の風景は、大学時代にも何度も心を和まされた。
- 移住者を受け入れる大らかさと、新しいものを取り入れる姿勢
滞在中の2日間で出会った中だけでも、移住者が多く、またうまく街の方に溶け込んでいる様だった。
宿場町で旅人を受け入れてきた気質が今でも受け継がれているのか、会う方がみんな朗らかに迎えてくれた。
最近聞いた、地域活性化のコンサルタントの方の言葉を借りれば、地域では「I(=アイターン)がYOU(=Uターン)を刺激する」らしい。
『よそ者』を受け止める余裕こそが、ここ数年よく聞く『多様性』の体現であり、よそからの刺激が、元からいた方にも良い影響を与えている印象だった。